2000 年 12 月 09 日の日誌から

チェーンメールの憂鬱

インターネットの電子メールってとても便利なものだけど,やっぱりルールってものがあるんです.その一つがチェーンメールの禁止でこれは「RFC1855」っていう文書のなかにあるんです.

チューンメールは禁止ってきくと「チェーンメール」がなにかよく分かっていない場合には,「いたずらのメールを転送することでしょ,そんなことはやらないよ」なんて勘違いする場合があるのですが,いたずらのメールではなく「このメールを転送してください」というメール,そういうメールを転送することが「チェーンメール」であって禁止されているのです.だから内容は問われません.いたずらのチェーンメールもあるでしょうし,人命にかかわる深刻な内容のチェーンメールもあります.

どんな深刻な内容でもそもそもチェーンメールという方法が悪いのです.「目的のためには手段は選ばない」って感じの悪さなんですね.

人命にかかわる重大な問題が発生したので,広く人々に告知したい.その時にテレビやラジオ,新聞などに広告を出すというのはどうでしょう?これはコストが心配ですね.いくら人命が大切でもボランティア的にそんな費用は用意できないのです.放送する側からみても人命に関わるような問題とはいっても電波に載せる価値があるかどうか考えて,価値がないって思ったらそうそう電波に載せないわけです.

電子メールは気楽に送信できて,100 人に送信しても 1000 人に送信しても送信側の負担するコストは極わずかです.さらに受け取った人々に転送してもらえば,すごいスピードでメールは増殖して,広く人々に告知することができます.

しかしこれはルールで禁止されているのです.どうして禁止されているのか?それを本当にきちんと理解するのは,実は結構難しいのではないかと最近ぼくは思っています.ぼく自身が認識が甘かったと思い知ることとなった事件(RH- 型輸血の件)もありましたし,人にチェーンメールの問題をいろいろと説明してもどうしても一定の割合で理解できない人がいるからです.

簡単に考えられるのは,コストの問題です.メールの送信には,送信側だけでなく,メールの受信側もコストを負担しなければならず,さらに簡単にはチェーンメールだけ受信を拒否するなんてことはできないのです.メール受信のコストは決して高いと思っていないかもしれませんが,受信側でどのようにしてメールを受信しているかは送信側には分からないし,そのコストをどう思っているかは受信側でそれぞれでしょう.

あるチェーンメールが発生したとします.まず 10 人にメールを送ります.受け取った人の中の 2 人がチェーンメールを転送しようと考えて,また 10 人にメールを転送します.これが 1 時間に 1 回起こるとします.24 時間後,つまり 24 回目の転送では 1,600 万人の人が 10 通ずつメールを転送しようとすることになります.この計算の通りのことが起こるのでしょうか? 起こらないとしたらどこが現実と違うのでしょう?

チェーンメールを送る場合,10 人ではなくもっと沢山かもしれません.2 人だけでなくもっと沢山の人が転送するかもしれません.それに転送するのに 1 時間もかからない人もかなりいるはずです.

どうして,チェーンメールによってインターネットのメールシステムは破綻していないのでしょうか?
まずメールを転送する人が 10 人に 2 人もいないのではないでしょうか?ある程度はチェーンメールがいけないということを知っている人がいますし,面倒でよく分からないから転送しないっていう人もいるのでは.
もちろんそう爆発的に増える前に,すでにチェーンメールを一度受け取った人にまたチェーンメールがくるということも起こります.ですから徐々に転送する人が減るかもしれないのです.

でもインターネットには何年も転送され続けているチェーンメールっていうのもあるのです.インターネットビギナーズガイドという古典的なインターネットの解説本の中で,「クッキーレシピ・チェーンメール」というのが紹介されています.美味しいクッキーの作り方のチェーンメールです.そのメールがぼくのところに転送されてきたのは,その本がでてから 1 年以上たってからでしたし,本の中でも過去の例としてあげられていたチェーンメールだったのです.この例からわかるのは,インタネットメールを新規で始める人が十分に多く,内容の時事との密接性が薄い場合は,ずーっと転送され続けるってことが起こり得るってことです.

また内容の深刻な場合ほど影響が大きくなります.チェーンメールがいけないことだと聞いている人でも,それが人命に関わったりしてくると,ちょっと決心がゆらいでしまいます.「これはいたずらではないし良いのでは?」だから普段はチェーンメールを転送しない人でもつい転送してしまうということが起こります.これはどうしてチェーンメールがいけないのかということを理解していないからです.
少し前に発生した輸血のボランティアを募るチェーンメールでは,連絡先を書いた人や病院などに沢山の問い合せがきて,本来の業務に支障をきたすような事態になったそうです.そんな問題が起こることは誰も始めには気がつかなかったし,問題が起きてからはもうチェーンメールは誰にも完全には止められないのです.

ではある問題の公式 web ページを立ち上げて情報を提示し,その URL を添付したメールをチェーンメールとして送り出すのはどうでしょう? その web ページのサーバは,ものすごいアクセス数になるわけですが,本当にそれだけのアクセスに耐えられるでしょうか?スローダウンしたり,停止したりすることにならないでしょうか?
また「転送しても大丈夫なチェーンメール」ということになったら,皆が本当に転送してしまうのでしょうか?本当にそのようなことになったら数時間後には,すべての人々のメールボックスはそのチェーンメールであふれてしまい,メールサーバがダウン.そのようなことは起こらないのでしょうか?
チェーンメールの発信元が,自分のメールアドレスを連絡先として書いていたために,沢山の返信を受けて,その人が属する組織のメールサーバがダウンしたという事件が日本でもその昔ありました.
チェーンメールでなくても自分自身をメールで転送する機能をもったコンピュータウイルスが発生したときには,ねずみ算式にメールが増えて,増大したメールを処理しきれなくなったメールサーバの一つがまずダウンし,そのメールサーバにメールを送信しようとしているメールサーバが連鎖的にダウンしていくという事件がありました.コンピュータウイルスであれば,それに対策するソフトウェアをメールサーバに追加するなどして,機械的に対処することができますが,チェーンメールの場合はそうはいきません.

結局はどう工夫しても「このメールを転送してください」というメールを転送する事は大問題です.実際に深刻な事態にならない場合は,メールを転送しない人がいるので,微妙なバランスによってメールシステムがダウンするのが防がれているのです.

「チェーンメール」を受け取ったときには次の行動が考えられます:

「チェーンメール」を受け取ったときにはどうすればいいですかという質問に対しての答えは 2 の「転送しないで無視する」です.どんな場合でも無視してください.それがあなたの肉親の命に関わるような重大な問題であったとしてもです.
3 のように「転送はしないし,チェーンメールは止めろ!って叫ぶ」っていうのは,「転送する」っていう人にいろいろ事情を説明するのも手間ばかりかかり,場合によっては「こちらが良かれと思ってやっているのにあなたは失礼だ」とかなんとかいろいろ反撃をくらったりします.
しかし「チェーンメール」によってメールシステムが崩壊しないのは,結局「転送する」っていう人と「転送しない」っていう人のバランスの問題なので,「転送するな!」って叫ぶ人がある程度いて,やっとかろうじてバランスが保てているのではないでしょうか?

で,ぼくはいつも叫んでいるのですが,そのうちに疲れてしまって「だまって無視する」ようになるのでしょう.